『55歳のハローライフ』で村上龍が描いた50代のさまざまな「再出発」

5つの中篇小説では、そうした50代の心情がつぶさに描かれる。「結婚相談所」では、58歳で離婚した女性が結婚相談所を訪れ、様々な男性との出会いと失望を経験する。結婚相談所「空を飛ぶ夢をもう一度」では、リストラされて経済的に困窮する54歳の男性が、交通誘導員のバイト先でうらぶれてしまった中学生の頃の友人に再会する。「キャンピングカー」では、早期退職をして妻と2人で日本全国を旅して暮らそうと考えていた58歳の男性が、妻がそれを望んでいないことを知り、第二の人生として再就職を考えはじめる。そのほか愛犬との別れを描いた「ペットロス」や、トラックドライバーだった62歳男性の老いらくの恋を描いた「トラベルヘルパー」など、いずれも切実な状況と不安的な心の有り様が描かれ、50代でなくても身につまされる思い。それでいて読み終えたとき、曇天にわずかな晴れ間を見つけたような気持ちになる。甘い菓子パンのような感動話というのではなく、淡々と現実を受け入れていく様(そうせざるを得ない様)に救われるのだ。